Precision Medicine(最適医療)の構築を目指して
2016年7月28日の日本経済新聞に、診断が難しい60代の女性患者の白血病を、膨大な医学論文を学習したAI(Artificial intelligence : 人工知能)が正確に診断し、さらに適切な治療を提案していたことが報道されていました。
報道によれば、女性患者は2015年に血液がんの1種である<急性骨髄性白血病>と診断され入院加療を行っていました。2種類の抗がん剤による治療が開始されましたが、寛解せず敗血症などを合併する危険が出たため、女性患者のがん遺伝子の解析を行い、その遺伝子情報をAIである米IBM<ワトソン>に入力しました。この米IBM<ワトソン>はクイズ番組で人間のチャンピオンを破ったことで一躍有名になったAIです。米IBM<ワトソン>は、この女性の白血病が<急性骨髄性白血病>のうち<二次性白血病>というタイプであることを、僅か10分程度の時間で診断し、抗がん剤を別のものに変える様に提案しました。結局その後、提案された新たな抗がん剤により女性は数か月で寛解状態となり退院したと報道されるに至りました。
この様な今までの医療の現場においては、考えられなかった出来事が次々と生み出されてきています。これは医療そのものがこれまでの医療とは大きくその姿形を変えることになってきていると、私達医療従事者は認識しなければならないと考えます。
この驚くべき医療の変化に先立つこと1年前、2015年1月20日、オバマ前米国大統領が一般教書演説のなかで<Precision Medicine:最適医療>という新たな医療のコンセプトを提案しました。Big Dataに相当する価値ある様々な科学・医療情報を、医療の場において生み出される様々な課題の解決に向け、AIを基軸とするシステムを総動員して行くというものです。この大きな流れは世界的規模で医療の現場を作り変えて行くものとなってきています。
日本においても内閣官房が<AI-病院>など、新たな医療に関わる政策的取り組みを積極的に展開してきている状況です。また通信システムも「4G」から次世代型「5G」への転換、AIの深層学習の進化、そしてIoTなど周辺基盤の質量両面にわたる飛躍など、<Precision Medicine>を構築して行く上で必須となる外部環境が整備されて来ている中に私たちはいると考えます。一方、地域包括ケアシステムを創り上げてゆくためには、医療と介護の統合を実現して行くための情報のマネージメントが徹底されてゆかなければなりません。しかしもうすでに、介護領域における情報の管理にかかわるAIを基軸とする、システム構築に向けた作業は開始されています。